仮面の公立王国 10 - 共存共栄への道

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 10回に渡って、『仮面の公立王国』を連載してきました。実際のところは今後の趨勢は読めません。埼玉県がやってきたことは「何もしない」ということです。唯一、学区制廃止で地区トップ校を守ったぐらいです。それで正解だと思います。教育行政がやることは次の三点だけでいいと思います。

  • 全体の教育方針を決めること
  • 高校受験で優秀な生徒を集める地区トップ校の学力水準を維持すること
  • それ以外は現場の裁量にまかせること

 この連載は『都立高校衰亡史』との対比で始めました。東京都の教育行政の失敗の真因を探るため、曲がりなりにも首都圏で公立王国を維持している埼玉県を対象にしました。もちろん、埼玉県だって、中学受験では優秀層が大量に都内に流出し、埼玉県出身者の東大生に占める浦和高校の割合は、10%程度に過ぎません。それでも、埼玉県の高校受験で、浦和は絶大なる存在感があります。
 埼玉県が最適な比較対象だとは思えませんが、存在しない理想郷を例にして、こうすればうまく言ったという論理展開はこのブログではしません。これこそが、都の教育行政が行った愚と同じだからです。彼らの理想郷では、日比谷、九段、三田、西、富士、戸山、青山、新宿、駒場などが東大50名程度の学校で共存し、受験地獄や特権意識を排除した、快活で明るい学校生活を提供する世界だったと思います。現実は地区トップ校を率先して潰したために、学区内の受験生に不信感が生まれ、私立一貫校への退避が始まり、高校受験そのものが崩壊してしまいました。
 余談ですが、私の価値観でも、何が何でも東大という高校よりも、東大に30名程度合格して、他は様々な進学先を選ぶ高校のほうが好きです。しかし、前者が存在しないと、後者も存在しえないことが、過去の資料で分かっています。トップ校を潰したところは二番手校も倒れます。日比谷があったからこそ他の都立も人気があったし、開成があるからこそ他の私立も人気が出ました。
 「浦和高校だけは守れ」そのポリシーが、埼玉県で奇妙な公立トップ校と私立進学校と私立附属校の共存関係を作り出しています。東京都がやるべきことは「学区トップ校だけは守れ」だったはずです。学区群のような改革をしなくても、私学は生き残りを賭けて、進学実績を伸ばしたはずですし、中高一貫教育もカリキュラムを充実させてきたでしょう。その兆候は既に学校群以前に出ていました。都立地区二番手校までは、私学との自由競争に任せ、私学が都立地区トップ校と並ぶところまで成長したときに、初めて何らかの前向きの対策を取るべきだったでしょう(間違っても私立を潰そうなどという後ろ向きの対策を取るべきではありません)。それでも、私立が評価されるのであれば、その私立は素晴らしい教育を提供している学校と言えます。
 仮面の公立王国で現在起きつつあることをまとめます。

  • 高校受験
    • 県立トップ校、浦和高校(男子校)、大宮高校(共学校)への最上位層集中
    • 県立上位校(熊谷、川越、春日部、浦和一女川越女子)での安定した進路指導強化
    • 私立附属校(慶應志木、早稲田本庄)は高校単独募集維持
    • 私立進学校は、トップ校、上位校の受け皿を提供
  • 中学受験
    • 私立進学校は、都内私学の併願的立場を利用して、優秀層が都内へ流出しないように防波堤となる
    • 私立進学校は、高校募集も維持して、高入生にも高度な進路指導を提供する
  • 公私協力
    • 県立高校校長の私立校への移籍
    • 県立高校跡地を私立校への貸与

 仮面の公立王国は、1995年を最後に失った東大三桁合格県の地位を2009年に回復し、2011年以後も東大三桁合格県の地位を強化しつつあります。