受験の南北問題 4 - 名門公立高の存在

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 埼玉・千葉・茨城を後背地に持つJR中央線以北では、費用対効果による学校選びが優勢になってくると説明しました。あくまでも、相対的なものなので、「うちは、埼玉県在住だけど、学校選びは校風と伝統を最優先にしています」という意見もたくさんあります。念のため。
 さて、本題ですが、その理由として、まず、一人当たりの県民所得が頭に浮かびます。常に東京都はトップで、神奈川県は2位グループに入って、他の三県はそれ以下のグループで変動しています。それだけかというと、この三県では公立トップ校がまだ健在であるという状況があります。

 この三県では、「公立中→公立高→東京大学」という費用ゼロのルートが生きています。県下で最も優秀な生徒は、公立中から公立高を経て東京大学にいくという自負です。
 ここで、埼玉県出身者を例にすると、高校受験を経て浦和高校から東大に行く生徒は30名程度です。当たり前ですが、埼玉県も中学受験人口は約15%で、多数の児童が私立中へ進学します。2010年度の実績を人口比で推計すると、埼玉県から中学受験を経て開成から東大に行く生徒は35名前後*1いると思われます。この程度の差であれば、年度によっては逆転していることもあるでしょう。つまり両者は拮抗しています。
 しかし、埼玉県民の意識では、中学受験した15%の私学に行った生徒は忘れ去られます。そして、残った85%にとって、浦和高校の存在は絶大なるものがあります。ということは、進学校の評価はすべて浦和高校を基準に減点法でなされます。

  • 浦高には学校の授業だけで東大に合格した天才がいる
    • →私立も成績優秀者には学費を減免すべきだ
  • 浦高で予備校に通えば東大に合格できる
    • →私立なら予備校不要で受験の面倒を見るべきだ
  • 浦高なら高校受験からでも東大に合格できる
    • →私立中高一貫校ならトップ校に匹敵する実績を出すべきだ。

 埼玉県の私学はこのような過酷な要求のもとに成長してきました。それは千葉県でも茨城県でも同じです。これに都立復権が加わるとどうなるでしょう。

 このルートが都民に定着したとき、都民は私学に対してどういう見方をするでしょうか?日比谷・小石川ルートを基準として、減点法で評価された場合、及第点以上を獲得できる私学はどのぐらい残るでしょうか?日比谷も小石川も伝統的には申し分のない学校です。これに進学実績が加わり、一部の優秀な生徒にとって費用もゼロに近いのです。東京都にも費用対効果による学校選別の時代がくるのです。進学実績で圧倒的に上回る一部の私学を除き、油断は禁物だと思います。

*1:埼玉県への都内流出は200人、東京都私学の東大合格者に占める開成の割合は6分の1、したがって200÷6≒35。