絶望高校受験 10 - 公私断絶の歴史

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 10回に渡って『絶望高校受験』を連載しました。当初は、栄光、聖光、浅野などが鍵を握ると思っていましが、数字で分析したところ、これらの学校は穏当に自分のペースを守りながら成長してきただけのようです。数字から読み取れるのは、神奈川県進学校史の主役は桐蔭学園であることです。当たり前のことですが、神奈川県唯一の東大三桁合格校が脇役であるはずがありません。
 神奈川県は1972年から百校計画により高校受験の定員を公立高校で独占する方針でした。栄光や聖光は設立当初から正規の高校募集を行っておらず、最初から高校受験から排除されています。多くの私立女子校も同じ状況です。浅野は高校募集を行っていましたが、それほど力を入れていたとは思えません。神奈川県の高校受験史を振り替えると、細分化される学区と、内申書選抜で弱体化されていく公立上位校と、その隙間をぬって急成長した桐蔭学園の構図になります。次の表は普通科のある公立高校の数と、100万人あたりの校数です。団塊ジュニアの頃が最盛期ですが、こんなに県立高校を増やしてしまうと、私立が高校受験で出る幕がなくなります。

年度 国勢人口 校数 校数/100万人
1970 5292904 53 10.0
1975 6295998 70 11.1
1980 6857040 118 17.2
1985 7349993 146 19.9
1990 7910382 156 19.7
2010 9008132 142 15.8

 桐蔭学園は、当初、1982年のグループ合同選抜で弱体化された東京都多摩地区の優秀層を集めて躍進し、その後、急速に県内から優秀層を集めて成長しました。そして、1992年の慶應湘南藤沢の出現とともに、中学受験で上位層を奪われ、1999年以後、負の循環に陥り、桐蔭学園のみならず、神奈川県で高校募集そのものの魅力が失われていきます。
 神奈川県で感じるのは公私断絶の歴史です。高校受験を公立が独占してしまったために、私立は中学受験でしか成長することができません。神奈川県の問題は、高校募集をする魅力ある私立進学校を育成しなかったことでしょう。それでも、公立トップ校さえ健在であれば、それを基準として魅力のある私立が成長できます。埼玉県や千葉県はその状態にあります。しかし神奈川県にはありません。
 また、神奈川方式*1の扱いが小さかった理由ですが、内申書重視の選抜を行う公立高校は、神奈川県に限らずどの都県でも一般的に見られます。だから神奈川県固有の問題とは言えません。絶望高校受験の問題は、神奈川県で優秀層を集める私立がマンモス校で一校しか存在せず、私立間の競争原理が働かなかったこと、公立高校の衰退を食い止められなかったこと、そして、その一校が倒れてしまうと、全部、倒れてしまったという複合要因になります。強いて挙げるなら、「高校百校新設計画」が絶望高校受験の遠因と言えるでしょう。
 最後に神奈川県の今後ですが、意外と「絶望高校受験」が顕在化したのは最近のことです。桐蔭学園が東大合格者数40人を割った2006年からでしょう。「絶望高校受験」の歴史はまだ6年程度です。「必要性があれば存在あり」で、いずれ、公立高校が成長するか、高校募集を行う私立高校が成長すると思います。今年度もいよいよ受験シーズンが迫ってきました。神奈川県公立高校の動向も注目です。


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