学校群15年史 - 評価

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 学校群の導入された15年間を前後を含めて振り返ってみました。単独校の東大合格者数で見ると、学校群導入直後の時点で都立高校は存在感を失っています。しかし、これは正しい評価の仕方でしょうか?正しい東大合格者数の評価は群単位で見るべきです。
 確かに祖父の代から戸山高校の受験生にとって、十分な学力を持ちながら、祖父や父の通った母校に抽選で行けないと決まったら、その落胆は想像を絶することでしょう。それが学校群に対する今も引きずる生々しい怨嗟の評価です。実際、私も父と同じ公立高校に通っていました。私自身は意識しませんでしたが、親戚は、私が父と同じ高校に合格したことを非常に喜んでいました。
 そういう感情面を除き、公的教育サービスとして、学校群時代の都立高校は力不足だったかと問われれば否と言えます。学校群15年間を通して、東京都は東大に100人前後を送り込む都立高校(群)を複数用意していました。都立高校が低迷した副都心以東の学区も国立大附属校が高校受験で受け皿になっていました。徐々に都立高校の勢いが衰えてきたと言え、学校群15年間で都立を上回った私立高校はわずかに3校(開成・麻布・武蔵)だけです。他の私立は結局都立を超えることはできませんでした。これが私の理想とする公私共存の状態です。
 現存する公私共存の例を挙げると、愛知県の東海高校と県立高校、福岡県の久留米大付設高校と県立高校を挙げることができます。これらの県では、優れた私立高校があっても、公立高校は依然として優秀な生徒の受け皿になっています。両者の間にほどよい緊張感があり、生徒の住み分けもできており、お互いを認め合っています。
 また、関西圏は、一見、私立が東大合格者数を独占しているように見えますが、関西圏では本当の進学校の評価は京大合格者数です。今年は堀川高校の躍進が話題になりましたが、京大合格者数でみると、北野高校や天王寺高校などの府立高校は、一貫して私立と対等な実績を残しています。関西では私立一貫校に頼らなくても公立高校から普通に京大を目指せます。関西圏も公私共存の理想的な環境と言えるでしょう。
 結局、私立独占のいびつな教育格差環境になったのは首都圏だけと言えます。今でも、このいびつな環境に疑問を感じず、「貧乏人は公立中にいって貧乏の再生産をするのが当たり前で、その再生産の循環から抜けるために、塾や私立一貫校にお布施をして、富裕層の末席に加えてもらうのが教育だ」と根拠のない価値観を持つひとが絶えません。そういう価値観こそ教育産業に無額面小切手を渡すようなものです。
 教育行政というのは非常に大きな慣性を持ち、修正の必要性を感じたときに手遅れになることも良くあります。学校群のツケがグループ合同選抜制度に出てきた面もあります。逆に公的機関が修正の匙加減を誤ると多くの私立校が破綻してしまう恐ろしさもあります進学校史の研究はその予兆をつかむためにも必要です。