医学部コースについて 4 - はしごを外される子供達

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 この件につていは、各家庭の問題ですし、何度も書こうかと思いつつ下書きを書いても、公開の段階で、やはりお節介はよそうと思い逡巡している件でした。でも、少なからず、該当する事例を知っているので、記事にしておきます。
 中学校受験で、ある程度、子供が優秀だと、親は舞い上がって、もしかしたらこの子なら医者になれるかもしれないと思うときがあります。なぜ、「成績優秀=医者」なのか全く因果関係はないのですが、多くの親が「あんなに優秀なのに医学部を目指さないのはもったいないわね」という発言をすることから、それが常識になっているコミュニティもあるのでしょう。私は同意しかねますが。
 この問題点を説明するには、カウンターパートである東大指向を例に出すと分かりやすくなります。子供を東大指向にする場合、どうやってやる気を起こさせますか?「官僚になって国を動かせる」「ノーベル賞が取れる」「お金持ちになれる」「異性にもてる」いろいろありますが、今時、どれも魅力的ではありません。最後の一つは少し魅力的かもしれませんが、3番目なんて嘘だし、1番目、2番目も更なる努力が必要な割りに、子供を引き付けるものではありません。結局、東大や難関大学を目指して勉強してもらうには、勉強そのものを好きになってもらうしかありません。公式の美しさを理解したり、関が原の深層を追及したり、清少納言紫式部の痴話喧嘩など、学問そのものを面白おかしく学ぶ姿勢を身に着けなければ、大学に合格できません。目的と手段を一致させるのです
 一方、医学部指向は複雑です。確かに難易度の高い医学部に合格する生徒は学問そのものが好きでなければ達成できませんが、医学部といっても私大まで含めると難易度に大きな幅があります。開業医の子弟のごく一部には、医者になる目的を果たすためには、お金という手段を使っても悪びれない生徒もいます。そういう生徒と同じ土俵で戦っているのが医学部指向なのです。
 さて、普通のサラリーマン家庭にとって、選択肢は国公立大医学部に限定されます。しかし難易度も半端ではありません。親は子供のやる気を出すために、「医者になるとお金が稼げて何でも買えるのよ」「あなたは医者という選ばれた職業に就くのよ」「人命を助ける医者は特別よ」というフレーズを中学校入学と同時に吹き込みだします。テレビも美男美女の俳優が医者を演ずるドラマを好んで見せます。ここまで医者が美化されると、子供は簡単に感化されてしまいます。高校1年生ともなると、心の中は立派な医者の卵です。また、目指している夢が一緒なので、開業医の子弟と話が弾みます。自ずと医者志望仲間でグループを作ります。更に私立一貫校はそのような開業医の子弟がたくさん集まる環境でもあります。
 悲劇は、その後に訪れます。仮に子供が国公立大学医学部に余裕を持って合格できる学力を持っていれば、問題ありません。リスキーでしたが、現時点までは子育て成功で一件落着です。ところが、国公立大学医学部には手は届かないが、開業医の子弟が行く私立大学の医学部には十分合格できる状況が起きます。そのときに親は決断を迫られます。「医学部を断念するか」「何浪しても医学部を目指すか」「私立大医の学費を捻出するか」。父親と母親と子供が分裂する瞬間です。子供からしたら、あれほど親から医者という職業の魅力を説かれて、その気になっているのに、医者を断念しろと言われます。頭では家計的に無理と分かっていても、中学校入学時からずっと夢にまでみた医者です。しかも仲良しグループの開業医家庭は、自分より成績が下位にも関わらず、私大医学部に進学して夢を実現してしまう、感情的に割り切ることはできません。まさに、親からはしごを外された瞬間です
 おそらく納得するところまで行くのでしょう。何年か浪人をして、親子共々すべて疲れて、他の道を選ぶことになります。国公立大学医学部を目指して勉強してきたので、学力優秀なのは確かです。他の道でもきっと成功できると思います。長い人生、2、3年の回り道なんて、当時者が思っているほどハンディにはなりません。しかし、中には親子共々はしごを外せず、サラリーマン家庭から私大医学部に行かせる場合もあります。何と無謀だと思いますが、この状況になれば私も同様の決断をするでしょう。仮に一人っ子であれば、絶対します。それが親の責任だからです。医学部を卒業するまでのおそらく5000万円を超える額を払うのが親の責任です。「はしごを外す」という無責任なことはできません。
 分かりますか?私が上記の文章で言いたかったことです。子供が多少勉強できたぐらいで、医者にご執心することの危険性です。子供に対してはしごを外したくなければ、気安く医者志望の夢なんて持たせてはいけないのです。じゃあ、サラリーマン家庭から医者を目指すのは罪なのかという反論がきます。罪ではありません。方法が間違っているのです。まず、東大指向でも何でもいいから、楽しく勉強する習慣を付けて、大学合格まで手段と目的を一致させるのです。高校2年か3年生の段階で国公立大医学部に合格できる実力があれば、初めて、子供に医者という職業に興味がないかと聞くのです。逆に子供のほうから「実は、医者になりたいからこそ、家計を考えて、国公立大医学部に入れるように勉強してきた」という返答がくるかもしれません。
 子供ってそういうものです。親がレールを敷きすぎると、そのレールに甘えて、レールが目の前からなくなるとうろたえてしまいます。逆に勉強をする習慣を付けて見守っていると、自らレールを敷いて将来を切り開くものです