都立の中高一貫化、進学指導重点校は民業圧迫か?

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  • 答え:YES

 これは確実に民業圧迫だと思います。ただ、行政をここまで本気にさせてしまった理由を各私立校関係者は胸に手を当てて考えたほうがいいでしょう。
 もともと、首都圏の中学受験は富裕層がするものでした。最上位の難関中を除けば、偏差値や進学実績なんてそれほどこだわっていませんでした。校風が気に入ったり、通学が便利だったり、縁者のいる学校を選んで入学していました。だから学校による偏差値輪切りは今ほどひどくありませんでした。独自の校風をもった男子校や女子校が共存していました。
 もちろん、男子の御三家だけは以前から実力勝負の激戦でした。ただ、御三家に失敗した場合、地元の公立中学に進学して高校受験で再挑戦する人も相当数いました。だから、公立中にも優秀な生徒がある程度入学し、素行の悪い生徒とバランスが取れるだけの環境を維持できました。一般家庭にも、公立中→公立高→難関国立大のルートが十分確保されていました。
 この状況が変わり始めたのは、やはり1980年代後半のバブルの頃でしょうか?土地や株の売買でそこそこの小金持ちになった一般層が中学受験に参入してきました。大手塾が急成長を始めたのもこのころです。パイが大きくなると画一的な受験指導が始まります。大手塾が偏差値輪切りで、合格確率を最適化して、受験生を何らかの私立中に押し込もうという風潮が定着します。結果として、公立中に優秀層が行かなくなり、素行の悪い生徒とバランスが取れず、公立中は荒廃しました。ますます、公立中忌避が進み、中学受験生は、校風や通学時間などお構いなく、偏差値で進学できる私立中に進むようになります。
 以前は、東大に10人程度しか合格しなかった私立校が、50人以上合格するまで成長したのは1990年代です。この状況を見て、今まで高校募集だけだった私立校が中学受験に参入してきます。一大受験産業の成立です。大手塾と新規参入私立校が、パイを拡大するために、盛んに私立中の優位性を宣伝し、暗に口コミで公立中荒廃の噂を広め、私立中高一貫校6年間の学費に耐える経済力のない家庭までも中学受験の世界に引き込んだのでした。

(東大合格者数比較)

略称 1985年 1995年 増分
桐蔭 40 107 +67
海城 12 68 +56
桜蔭 21 72 +51
巣鴨 14 63 +49
麻布 82 101 +19
浅野 7 26 +19
聖光 18 35 +17
開成 157 170 +13
筑駒 72 84 +12
学附 100 110 +10
桐朋 46 55 +9
栄光 62 70 +8
駒東 42 47 +5
筑附 59 47 -12
武蔵 73 57 -16

 その結果生まれたのが教育格差社会です。首都圏では、中学受験をする経済力のない家庭に生まれた子供は、いくら潜在力があっても難関大学に引き上げるまでのルートがなくなったのです。ここで、ようやく行政も重い腰を上げるようになりました。それが2000年代の半ばから始まった都立中高一貫教育進学指導重点校です。
 私立校はもちろん営利団体です。利益を出さなければなりません。しかし、教育者の良心があれば、自分たちの度を過ぎた募集が貧困層から高等教育の機会を奪ったことに胸を痛め、公立中との共存共栄の道を模索しなかったことを反省すべきです。今後は、教育者としての良心を失った私立中から淘汰される時代が始まると思います。