朝三暮四と私学助成金

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先誑之曰、與若芧、朝三暮四、足乎。衆狙皆起而怒。俄而曰、與若芧、朝四而暮三、足乎。衆狙皆伏而喜。

《中国、宋の狙公(そこう)が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという「荘子」斉物論などに見える故事から》

  • 目先の違いに気をとられて、実際は同じであるのに気がつかないこと。また、うまい言葉や方法で人をだますこと。朝四暮三。

 朝三暮四の場合、最初の提案と二度目の提案は結果は同じなので、まだ良心的なほうです。場合によっては最初の提案よりは二度目の提案が損する悪質な事例もあります。最近有名な事例は「子ども手当て」でしょうね。
 子供に毎月13000円配ります。ところが翌年からは対象の子供を扶養控除から外す法案もセットでした。結果的に、課税所得が増え、年収によっては毎月13000円以上の増税になり損をします。損しないまでも、税金を納めている人からみると、毎月の収入は思ったほど増えません。その「子ども手当て」も時限立法だったらしく、もとの児童手当に戻るらしいですが、扶養控除の件がどうなった分からず、結果的に、サラリーマンの収入が増えるような改正にはなってないでしょうね。
 さて、表題の私学助成金ですが、多くの方がもらえてありがたいと思うでしょう?しかし、これも朝三暮四の結果として生み出されたことに気づく方は少ないでしょう。私学助成金自治体によって違いますが、35万円〜40万円です。ここでは35万円とします。生徒一人当たり毎年私立に対して35万円支払われます。私立側は、その金額で授業料を安くしたり、学校の設備を充実させます。保護者にとってもありがたい制度です。しかし、その財源は税金です。
 これを聞いて、公立に通わせている親は怒るでしょう。それだけでなく、子育てをしていない納税者も怒るでしょう。「好き好んで私立に通わせている奴らに何でそんな無駄金を使うのか?本来なら、社会で共有できる医療費や介護費に回すべきだ」と言うでしょう。
 ところが、意外にも私学助成金は節税対策として生み出されたものです。実は公立校には設備や人件費などを含めて毎年生徒一人当たり90万円の経費が掛かっています。特に教員は公務員ですから、生徒数が減ったからといって、職を奪うことはできません。一度、公立校の教員として採用したら定年まで30年以上も固定費を支払い続けることになります。これでは予算がますます増えるばかりです。その解決策は、生徒を私立中に追い出して公立中の生徒を減らすことです。この場合、偏差値によって生徒一人あたりの経費が変わることはありません。誰を私立中に追い出してもいいのです。
 まさか!と思うでしょうが、中学受験ブームというのはそういう背景で生み出されたものなのです。税金を減らしたい公立中、生徒を増やして商売にしたい私立中、受験というオーバーヘッドを利用して利益を上げる塾、三者の思惑が一致した結果の中学受験ブームです。公立中の荒廃やゆとり教育も、生徒を私立中に追い出すには格好の条件で、行政が最近までまじめ対応しなかったのも、根底には節税対策になったからです。
 しかし、公立中と同じ条件でも90万円ですから、毎月75000円、そんな授業料を払える家庭は多くありません。中学受験ブームを起こすためには梃入れが必要です。その梃入れこそ、私学助成金の35万円です。これにより各家庭の授業料負担が55万円程度になります。毎月5万円払ってもおつりがきます。これなら多くの家庭が私立中に通わせられます。行政のほうも丸々90万円の節税にはなりませんが、35万円助成金を払うことで、55万円の節税になるのですから、おいしい話です。

  • 公立中:税金90万円
  • 私立中:税金35万円(私学助成金)+保護者負担55万円以上(授業料)

 保護者は、本来なら無料で受けられるべき教育環境を奪われ、35万円の私学助成金に感謝しながら、55万円以上の授業料を納めているのが、中学受験ブームの実態です。行政が公立中高の建て直しに力を入れはじめたのも、私立中への追い出すべき生徒の割合がほぼ適正値に近づき、今度は私立中から荒廃をなくすことで、オーバーヘッドを減らす方向に舵を切ったからでしょう。
 中学受験の渦中にいる人に気づかないでしょうが、所詮、名門校は公立も私立も行政の気まぐれでもてあそばれる運命なのです。