絶望高校受験 1 - 導入

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 『都立高校衰亡史』『仮面の公立王国』で、それぞれ東京都と埼玉県の公立高校の動向を追ったのですが、今回『絶望高校受験』で神奈川県の動向を見てみます。いささかというか、かなり失礼な表題なのですが、神奈川県の公立高校を追っていくと、正直なところ、この表現になってしまいます。この現実を踏まえて、どのように公立高校を立て直していくかが神奈川県民の課題だと思います。
 神奈川県は種々のデータが示すとおり、東京都に続く教育県です。17歳人口比での東大合格者数*1も全国平均で流入を示しており、現実のモデルに即した閉鎖通学圏*2に限定しても、東京都という巨人を隣にしても、流出を全体の3割以下に抑えています。最優秀層の過半数を県内の私学で育成しているのですから誇るべきことでもあります。これは、7割以上が流出している埼玉県や千葉県とは違います。
 しかし、その光こそが闇の原因となっています。それに比べると東京都や埼玉県はかわいいほうです。なぜかというと、「公立中が荒れています」と言われれば、「確かにそうですね。それでは公立高校を立て直して、高校受験の枠組みから公立中のレベルアップを進めて行きましょう」という同意が取れます。それは、「公立中が荒れている」が「負」のテーマとして見えているからです。
 ところが、神奈川県の場合も同様に公立中の問題があると思いますが、それが「負」ではなく「闇」の領域に潜っているので、共通の同意が取れず、公立中の生徒にどのような高等教育を提供していくか方向性が定まりません。以下に一都四県の二桁合格校の高校募集提供状況を紹介します。東京都の場合は該当校が多いので上位校に絞ります。

都県 性別 高校募集する上位校(東大合格者数2011年)
茨城 土浦第一(29)、水戸第一(14)
茨城 土浦第一(29)、水戸第一(14)
千葉 渋幕(34)、千葉(19)
千葉 渋幕(34)、千葉(19)
埼玉 浦和(30)、開智(17)、大宮(16)、栄東(12)
埼玉 開智(17)、大宮(16)、栄東(12)
東京 開成(171)、筑駒(103)、学附(58)、筑附(36)
東京 学附(58)、筑附(36)、西(29)、日比谷(29)
神奈川 桐蔭(11)、湘南(10)
神奈川 桐蔭(11)、湘南(10)

 有力校の規模が違いますが、東京以北の都県に共通しているのは、男子校と共学校のトップ校が高校募集をしていることです。公立中の生徒にとって、カリキュラムの都合上、高校受験から合流して、一貫コースの生徒に匹敵するパフォーマンスを出すのは容易ではありませんが、それでも、一貫コースの俊英たちと机を並べる機会を与えられるのは、大きな励みになります*3
 ところが、神奈川県の場合は、トップ校は公立中の生徒に対して門戸を閉じました。公立中の生徒から見て、高校から同じ学び舎に加わることはできません。栄光、聖光、浅野に進学した小学校の同級生は、いつまで経ってもアウトサイダーです。この状態を『絶望高校受験』と名付けました。神奈川県は、私にとっては教育事情を口コミで情報を得づらい地域です。だから、連載を始めるに当たって、相当の反論も覚悟していますが、神奈川県の問題は首都圏の教育を語る上で避けて通れないと思っています。

*1:都道府県別東大合格率2011 - 17歳基準

*2:閉鎖通学圏

*3:一部、中入生と高入生の完全別クラス制を採用している高校もありますが、それでも廊下や学校行事等で面識を持つ機会は与えられます。